【速報】雪発電(2025年)の成功報告
**【速報(随時更新)】**
※ 融雪の写真や動画は本文(説明)の下部に掲載しています。
※ 文章や映像などの著作権は本研究室に帰属します。転用の際は、必ずクレジットを入れていただきますようお願いいたします。
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1. 報告の概要
2025年2月18日(火)、北海道倶知安町のニセコ地域にある実験設備で、「雪発電」に関するプレス向け公開が行われました。本実験施設は倶知安町内の小学校の空き地に設置されており、電線が引かれていないうえ広大な敷地が雪で覆われている場所でも、完全に独立した発電施設として機能しています。
(実験を行った小学校跡地の様子。写真右手に見える建物は、実験データの取得や暖を取るために使用する詰所)
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2. 雪発電の基本構造と特徴
今年度は発電能力 7 kWのスターリングエンジンを使用し、低温熱源として雪(不凍液を熱媒体として利用)を、高温熱源としてバイオマスペレットをガス化・燃焼させて得られる熱エネルギーを活用しています。
– 低温熱源:自動車のラジエータをイメージしていただくとわかりやすいように、本来はエンジンで生じた熱を空気に逃がす仕組みがありますが、この雪発電では「低温熱源」を雪が担っています。
また、このシステムでは、一般的には空気や海水などが担う熱サイクルの低温熱源を雪に置き換えることで、同時に融雪を行える点が大きな特徴です。新たに化石燃料を使わずに融雪ができ、むしろ雪を資源とみなして発電を行い、あわせて後述する水資源の取得にもつなげることができます。
– 高温熱源:バイオマスペレット由来の熱エネルギーを活用し、スターリングエンジンの高温側の熱源として利用しています。
スターリングエンジンを冷却する不凍液(低温熱源)は約 90 ℃まで加熱されますが、雪と同じ温度(約 0 ℃)に至るまでの下記の温度域で熱を段階的に有効活用する仕組みが、いわゆる “カスケード利用” です。
具体的には、
– 約 90 ℃:給湯に活用、または大量の雪を融雪する際に利用
– 約 50 ℃:床暖房などの暖房用途、もしくは融雪に活用
– 約 30 ℃:屋根融雪や道路融雪に利用
– 約 0 ℃:再びスターリングエンジンに戻し、エンジンを冷却
こうした段階的な熱の活用により、本来は捨てられてしまう排熱を最大限に生かし、雪国における暖房や融雪などの需要を同時に満たすことが可能になります。
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3. 本実験で達成した主な成果
1) 発電した電気の活用
– 10 kWhの家庭用蓄電池を使用することで、施設内の電力需要と供給のバランスを維持。
2) 道路融雪
– 実験施設内の雪かきを行わず、構築した道路融雪のみで除雪を完了。
3) 屋根融雪
– 実験施設の屋根に積もった雪を人力で下ろすことなく、構築した融雪システムで除去。
4) 部屋暖房
– 室内を暖房するための熱源として利用。
5) 温水の取得
– 生活用温水や実験用に活用。
6) 融雪水の有効利用
– 屋根融雪で得られた水をトイレ等に活用可能な簡易濾過を実証。
– 飲用レベルまで対応できる濾過方法を検証(注:今回は実験関係者のみで飲用。保健所の検査を実施していないため、見学者等への提供はできませんでした。また濾過装置は本研究室で開発したものではなく、既に市販されている企業製品を使用)
※ 上記の技術の一部は特許出願済、今後は学術雑誌や学会発表で積極的に研究内容を発表予定
また、実験施設内の動力ポンプ(消費電力1 kW)や暖房ファン、実験データ取得用の詰所(照明含む)を含む“全ての電力”を、この雪発電でまかなうことに成功しました。その結果、実験施設は実質的な “カーボンニュートラル” を達成しています。
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4. 融雪水の取得量と活用
– 9m²の屋根で、1時間あたり60~100リットルの融雪水を得られることを確認
– 一般的な家庭用浴槽が約200リットルであるため、ある程度の水を確保可能
– 融雪水を濾過することで得られる水を不凍液と熱交換させることで、将来的には “入浴” や “温かい飲食物” の提供が可能になる見通しを得た
– 屋根だけでなく地上にも同様のシステムを設置し、雪を連続的に供給することで、”広範囲の融雪“を行いながら必要な水を得ることが可能
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5. 完全に独立した発電・熱供給・水供給拠点としての可能性
– “実験施設は電線が引かれていない” 環境下でも、独立した発電施設として機能
– 見学者(専門家)からは「電源や熱供給だけでなく、水の供給も可能な非常用の小型インフラ施設として期待できる」との評価
– 雪が存在することによる発電効率の向上(数 % ~ 10 %程度)も確認され、「雪発電」という名称にふさわしい成果を得るとともに、社会実装での労力削減(雪かきや雪下ろし不要化)の可能性を示唆
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6. ニセコのパウダースノーでの実証と展望
ニセコのパウダースノーは、密度が低く有効伝熱面積が小さいという、伝熱工学上の厄介な特性を持ちますが、今回は十分な余裕をもってすべての実験を成功裏に終えることができました。当初はパウダースノー特有の性質に起因する問題が数多く発生しましたが、学生達との議論を重ねる中でそれらを克服した経験は、研究室の結束力を高めると同時に、大きな自信にもつながりました。
この成果は、水分を多く含む雪に対してもシステムが適切に運転できる可能性を示唆しています。
さらに、融雪水を一晩寝かせて氷にした状態から再度融解して発電し、水として利用する手法も実証できました。
これらの検証結果を踏まえ、今後の応用範囲拡大と技術の深化に繋げていきます。
**関係者への感謝**
倶知安町での実験に携わってくださった皆様、遠方から見学や広報にご協力いただいた皆様に深く感謝いたします。今後も本実験の成果を活かし、さらなる技術的改良と社会実装に向けた研究を進めてまいります。
✓ 融雪後の写真 その2(別日撮影) 青い線は、温度を測定するシース熱電対
✓ 融雪開始 4 時間後(融雪水温度は中心が 20 ℃前後)
※ 中央部のステンレス蛇腹管に不凍液を流して融雪を行っています。本来は屋根の景観を損なわないよう屋根裏に埋設する設計にしていますが、このように後付けでも対応できることや、見学者にわかりやすいように外部へ後付け設置を試みてみました。
屋根融雪の動画
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