国立大学法人 電気通信大学 榎木研究室

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研究内容

研究内容の目次

JAXAとの共同研究案件:宇宙機や宇宙空間そして人工衛星等の熱制御

宇宙という特殊空間での熱設計技術の確立

keywords: 沸騰二相流、熱伝達特性、予測技術、機械学習

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発電施設や輸送・電子機器を冷却する分野では、省電力化や小型軽量化に適した沸騰二相流の熱制御システムが利用されています。さらに近年では、厳しい環境下にある通信衛星や月面探査などの宇宙分野においても注目がされています。
一方で、宇宙などの微小重力環境下では、沸騰二相流の熱伝達特性について、物性の異なる気体と液体が混在して流動するため、地上でさえも知見が十分であるとは言えず、重力の影響を正確に予測するまでに至っていません。本研究室では、実験的検証と機械学習を組み合わせることで、沸騰熱伝達特性の予測技術の確立を目指しています。本手法が確立すれば、幅広い産業分野への適用が期待できます。
宇宙機に搭載される機器の高性能化に伴い、排熱要求は増加傾向にあり、さらにミッションの高度化に伴った多様な環境にて宇宙機全体の熱設計を成立させる必要があります。従来では実績及び信頼性の観点からヒートパイプや、単相流による排熱方式が一般的でした。しかし増加する排熱要求への対応が困難であり、沸騰二相流を利用した熱制御技術の開発が進められています。
一方で、熱交換器の設計に重要な気液二相流体の熱伝達特性について、微小重力環境での試験例が報告されているものの、微小重力特有の現象について統一された見解は存在せず、未だに一般化した式は報告されていないことが課題となっています。
そこで本研究室では、微小重力環境下における沸騰二相流の熱伝達特性について研究を行い、特に将来の月面での活動に向けたヒートポンプシステムの構築に貢献することを目指しています。本研究はJAXAとの共同研究であり、当研究室では二相流体の沸騰熱伝達特性を正確に予測するために、本研究室の特徴である可視化技術や熱伝達特性評価手法に加えて、機械学習を用いた熱伝達特性予測技術の知見を活かし、研究に取り組んでいます。

微細流路内気液二相流動現象の解明

熱交換器の高性能化に関する研究

keywords: 気液二相流、マイクロチャンネル、可視化、機械学習

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内径1mm程度の微細流路内を流れる気液二相流の複雑な流動現象を解明し、空調機や冷蔵・冷凍庫、自動車等の様々な機械機器の高性能化を図る。

熱交換器の高性能化に関して、通常の熱伝達データの取得のみならず可視化映像等から物理現象を解明し、より精度の高い数式化することで、身の回りにある様々な機械機器の高性能化に役立てる研究です。
映像A-1は、内径1mm程度の伝熱管内(熱交換器の一部)でフロン冷媒が沸騰している様子を高速度カメラで撮影したものです。映像A-2は伝熱管に冷媒を供給している様子を可視化したものです。一般に、熱交換器はこの入口にある空間から水平に設置された数本の伝熱管へ冷媒を供給しています。重力の影響や機械振動があり、均一に冷媒を伝熱管へ分配することは難しいため、研究課題として取り組んでいます。(映像を赤くしているのは可視化のテクニックの1つです)
このような可視化映像から物理現象を解明し、数式化することで、身の回りにある様々な機械機器を高性能に設計できるようにしています。
近年では複雑な熱伝達現象について人工知能(AI)の機械学習を一部利用し、大量のデータから物理的特徴を導き出す研究も行っています。図A-1は、取得した熱交換に関する実験データ(■プロット)を再現するように、整理式を構築し、予測した値(実線)を示しています。可視化実験を行うことでこのような高精度な整理式を作り出すことができます。また機械学習による予測値(〇プロット)も整理式の予測値と同様に、実験値を非常によく再現しています。
また、この研究は、人工心肺装置など血液を冷やしたり温めたりすることにも応用されています。

排熱有効利用促進のための研究

工場排熱等を回収し他のエネルギーとして利用するための研究

keywords: 多孔質体、可視化、流体の相状態によらないエネルギーの高効率変換技術

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現在は廃棄されている、200℃程度の工場排熱やマイナス200℃のLNG(液化天然ガス)の熱エネルギーを、これまでにない高い効率で回収し、他のエネルギーとして利用できるようにすることを目指す。

特殊な多孔質体を利用した飛躍的な伝熱促進技術について研究しています。
図B-1は、通常の伝熱管と本研究室で研究対象としている多孔質体の断面の比較写真です。
多孔質体といっても様々な種類があります。本研究室で取り扱っている多孔質伝熱管の特徴は、内部に充填されている多孔質体と外部の伝熱管が同じ金属で作られていて、かつそれらは物理的に完全に結合された、焼結結合の状態にあるということです。図B-1にあるのは取り扱っている多孔質体のうち、繊維状の多孔質体を焼結結合させた伝熱管の写真です。
伝熱管と内部の多孔質体を焼結結合させることで、従来のように、ただ多孔質体を伝熱管内部に詰めただけではないため、通常は問題となる接触熱抵抗が理論上存在せず(電気で言えば電気抵抗がない*1)、熱交換の効率を飛躍的に上昇させることに成功しました。
そこで、図B-2のグラフは、内径18mm、全長150mmのノーマル伝熱管と、繊維状の多孔質体の充填長さを25mm、50mm、75mmとして空隙率80%(伝熱管内部の空間の割合を示し80%は空洞の状態)にした伝熱管で実験して得られた排出空気の温度差について、比較したものです。入口温度は乾燥空気を約200℃とし、伝熱管の周りを1℃で冷却しています。
図B-3は、実験条件とその結果の概略図です。
ノーマル伝熱管は出口までの熱交換長さ150mmで約50℃の温度差である150℃で乾燥空気が熱交換されて排出されるのに対し、多孔質体を充填したものでは、多孔質体の充填長さ25mmで温度差は180℃以上にもなりました。充填長さが50mmや75mmのものについては、3℃の冷風が実験装置から吹き出してきます。
この多孔質体を充填した場合の熱伝達効率の高さは驚くべきもので、密度が1000倍大きい水を大量に循環させて熱除去するよりも良好な熱伝達を、空気が達成したことになります。

このように多孔質伝熱管を使用することで、これまで工場で排出されていた200℃程度の排熱や、マイナス200℃で輸入されるLNGの冷熱回収が可能となります。

今後は、映像B-1のようにサーモグラフィーなどを駆使して、なぜこのように伝熱が良くなるのかなどの物理メカニズムの解明を行っていきます。サーモグラフィーを使うと、多孔質伝熱管を外部から加熱した映像で、通常は高い温度場が形成されない伝熱管内部に繊維状の高い温度場が形成されていく様子が確認できます。こうして解明したメカニズムを様々な用途に使用できるように一般化された整理式を構築する予定です。
最終的にはこの多孔質伝熱管を使用して、世界中のエネルギーを有効利用することを目標としています。
(エネルギーのカスケード利用の促進)

*1 分子 (原子) レベルで考えると、電気と熱はどちらも伝わり方はほとんど同じであるため物理現象も似ている。この関係性をアナロジーと言うが、電圧は温度差に、電流は伝熱量に、電気抵抗は熱抵抗と対応するという関係性を持っている。

サブクール沸騰熱伝達の研究

電子機器などの高性能化に関する研究

keywords: 気液二相流、サブクール沸騰、多孔質体、可視化

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高効率な熱交換器の研究開発を行い、航空宇宙関連機器、新幹線などのインバータ、CPU等の電子機器から発せられる高熱を効率よく除去することで機器などの高性能化を図る。

工場排熱等を回収し他のエネルギーとして利用するための研究”で紹介した内容と同様に、特殊な多孔質体を利用した飛躍的な伝熱促進技術について研究しています。
違いは、熱交換する流体が気体や液体で相が固定されているのではなく、沸騰や凝縮といった相の変化を伴う相変化熱伝達を利用するという点です。
相変化を伴う熱伝達を利用すると、気体と比較して2~4桁程度、液体ならば1~2桁程度も高い効率で熱を輸送することができます。だから、自動車のラジエータはエンジンを冷やすときに水などを沸騰させてエンジンを冷やし、ラジエータで凝縮させて、効率良くエンジンが適温になるようにしています。身の回りの空調機も、夏場ならフロン冷媒が室内機を10℃程度で沸騰しながら空気と熱交換することで、部屋の温度が涼しく維持されているのです。
この沸騰現象によってどれほど除熱ができるかを考えることは、今後の機械機器の高効率化のためには避けて通れません。特に電子機器は発熱密度が上昇しているため、より効率の高い除熱が可能な熱交換器の開発が望まれています。
映像C-1は、通常の伝熱面で流動している水に、単位面積当たり2,000 kW/㎡と原子力発電所と同じ程度の非常に大きな熱負荷を加えた実験で得られた高速度カメラの映像です。何も熱交換器の改良を加えなければ、このくらいの熱負荷が限界で、映像でわかるとおり、大きな蒸気が発生しているのに加え、伝熱面に液体が全く存在しない時もあります。上述のとおり、伝熱面が熱伝達の悪い気体だけになると、熱交換効率が2~4桁下がるため、伝熱面の温度は一気に数百℃に加熱され、故障してしまいます。
そこで、本研究室では、多孔質体を利用した沸騰促進技術の開発を行っています。現時点では2~3倍程度の除熱が可能であることが分かっています。さらに研究を進めて、あらゆる機械機器の高性能化に貢献できる熱交換器の開発に取り組む予定です。

混合流体沸騰現象の解明に関する研究

次世代型冷凍空調機の世界規格を決定する大プロジェクト

キーワード: 沸騰熱伝達、混合流体の沸騰熱伝達、熱物性、可視化、機械学習

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本研究は政府系プロジェクトであり、マーケットの非常に大きな冷凍空調分野において、今後も日本が引き続き、この分野を先導して世界規格を作り上げていくことが目的です。プロジェクトの研究機関は、早稲田大学や東京大学、九州大学、産業技術総合開発機構などで構成されています。
具体的な研究内容および本プロジェクトにおける本研究室の役割は以下の通りです。
現在、冷凍空調機器で使用されている代替フロン冷媒は、オゾン層破壊には影響しないが、地球温暖化係数GWPが高く、今後は使用が徐々に禁止されていきます。このため新冷媒を探索研究中です。そこで新冷媒研究の世界的な動向として、2種類以上の異なる性質を持つ冷媒を混合させることで、冷媒の持つメリットとデメリットを補うことを目指しています。一方で、混合物質では沸騰しやすいものが先に気化するため、混合冷媒の物性が局所的に大きく変化するなど沸騰現象が非常に複雑になるという問題点もあります。次世代型冷凍空調機を設計する際には、この複雑な沸騰現象を明らかにする必要があります。
そこで電気通信大学の本研究室ではこのプロジェクトにおいて、実験的研究と理論的研究を包括的に行いながら、この複雑な沸騰現象の物理メカニズムを解明することで一般化された整理式を構築し、制御装置に組み込む事で、ニーズに合った熱交換器の開発が可能となるように、世界規格を整備するための研究を遂行しています。

物理現象の解明ってどうやって行い、そして整理式を作るの?

小中高生の自由研究、大学生・大人を対象としたWeb実験講座

keywords: 雑学、見えることの重要性、iPhoneのスロー動画機能、自由研究、出前授業

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これまでは榎木研究室で行っている研究を紹介しましたが、たびたび出てくる「物理現象の解明」や「整理式の構築」って、難しそうでとっつきにくいと思われたかもしれません。
しかし、身の回りにあるものの物理現象を、iPhoneのスロー動画撮影機能を使うだけでも、理解することができるようになります。つまり「可視化」ができます。
このWebコーナーでは、年齢に関わらず研究に興味をもっていただき、小学生や中学生の自由研究などにも活かしていただけるように設けました。
そこでコーナーでは、身近なものを使って誰でもできる実験の例を紹介します。
今回は、家庭用消臭剤の詰め替え用ビーズを用いた実験を紹介します。
実験に準備したものは、
・家庭用消臭剤の詰め替え用ビーズ
・iPhone
・空のペットボトル2本
・ガムテープ
これだけです。簡単に実験できるので、試してみてください。

実験の手順は以下の通りです。
まず、家庭用消臭剤のビーズを1本のペットボトルに入れます。そして、その飲み口にもう1本のペットボトルの飲み口をあわせて、2本のペットボトルを接合します。
そうしてできた「実験装置」を縦に置いて、ビーズがどのようにして落下するかを観察します。
映像EX-1は、ビーズが落下する様子をiPhoneで通常撮影したものです。
それに対して映像EX-2は、ビーズを落下している様子を、iPhoneのスロー動画撮影機能を使って撮影したものです。
ビーズの物理現象を解明するにあたり、スロー映像への着眼点は大きく2点あります。
まず1点目は、この映像によって、ペットボトルの飲み口から落ちている一つ一つのビーズが球体としてきちんと捉えられているということです。これはビーズの物理的性質を理解する手がかりになるということです。
たとえば、個数をカウントしようと思えば、がんばればできます。映像EX-1の通常の映像だと、カウントは間違いなく無理です(本当は、映像EX-2でも、ちょっと個数カウントには速いので、高速度カメラを使いたいところですが、青いビーズのみに注目すれば容易にカウントできています)。
さらに、スロー映像からは、個数をカウントできるだけでなく、落下速度や1秒当たりに落下する個数などの重要な情報を得ることができます。もしこのビーズが液滴燃料であれば、このビーズ(液滴燃料)の情報を得ることで、どのくらいの燃焼が生じるのかが予測できます。つまり、機械設計をする際に、このスロー映像は、大変貴重なものになります。
2点目の着眼点は、ビーズが落下した後の動きです。ビーズは落下すると、すでにペットボトルの底にたまっているビーズと衝突しています。その際に衝突を受けたビーズは、衝突の影響で跳ね返ったり、形状を変化させて弾んだりしています。そしてその衝撃はその他のビーズにも伝わっている様子がわかります。つまり、すでにたまっているビーズは落下してくるビーズのクッションの役目も担っていることになります。ですから、手に持ってこの実験をすればわかりますが、ビーズをたくさん詰めた場合とそうでない場合では、手に感じる衝撃は全く違ってきます。意外にもビーズをたくさん詰めた方が振動は少ないことが理解できます。ビーズを詰める作業をオートメーション化する際には、跳ねて個数が減少することのないように対策、もしくは衝撃が大きいならば、詰める袋の最大強度などを設計する際に役にたつでしょう。
以上を踏まえて、「整理式の構築」について考えてみましょう。今回は1点目の着眼点を例に説明します。整理式の構築とは、物理現象を数式化していくことにほかなりません。詳しくはのちほど説明しますが、数式化することで物理現象のかかわるものごとを予測することができるようになり、私たちの社会の役に立っていることが多くあります。
ビーズが1秒当たりに何個落ちてくるのかを予測したい場合、ペットボトルで行ったような実験をしてビーズの個数をカウントします。ただし、1秒当たりに落ちてくるビーズの量は、ビーズの重さや詰めるビーズの量(充てん量)、そしてぺットボトルの飲み口の大きさ(開口度)などによって違ってくることが予想できます。ビーズの落下する規則を調べるためには、それらの実験条件をさまざまに変えて実験を行います。
また、今回は消臭剤のビーズを使いましたが、その材質が金属製なのか木製なのかなどによっても、単位当たりに落ちてくる個数は変化すると考えられます。ですから、これも実験条件として含めて実験を行います。
実験条件は、今回であればビーズが1秒当たりに落ちてくる事に関わってくると考えられる事象を選びだし、その事象を変化させて実験を変化させるように決めていきます。
そして、集めたデータを集約することで、ある決まった物理的な法則がみえてきます。
この法則をもとにして、ビーズをどんな材質にしても、そしてペットボトルの開口度をどう変化させても、1秒間当たりに落ちてくるビーズの量を予測できる式を立てれば、最終的には、任意の材質や任意の大きさのビーズ、そして任意の大きさの飲み口のペットボトルで実験を行った際の実験結果を、実際にその実験を行わなくても、予測することができるようになります。このような式を、「一般化された整理式」といいます。「一般化」とは、球体の材質や大きさ、そして開口度によらず、適用できるという意味です。
一般化された整理式を使うと、例えば、工場でビーズを詰める作業の時に、機械を何秒で止めれば、何個入るという事を予測することができます。ビーズを詰める機械に数式をプログラムとして入力すれば、工場のオートメーション化に役に立つでしょう。そして、それは消臭剤の詰め替えサイズの大きさの変更にも柔軟に対応できます。さらに、消臭剤の開発が進み、材質が変わった場合でも、プログラムを変更する必要はないので、企業側からすれば時間やコストの削減につながります。
私たち人間は未来を予測できません。しかし、このように物理法則を数式化することで、今回の場合だとビーズの落ちてくる個数を予測できるようになり、社会を良くすることができます。一番身近な例は、天気予報です。天気予報によって明日の天気を予測できるのは、このような実験と理論を組み合わせて物理現象を数式化しているからなのです。
ちなみに、映像EX-3は、ただの補足になりますが、ペットボトルを傾けた場合のビーズの様子を、iPhoneでスロー撮影した映像です。ほぼ全てのビーズが、傾きが安定した時から一定の角度で跳ね返っている様子がわかります。つまり、この実験で使用したビーズは工業製品として一定の性質を有するものであり、均一に製造された優良品であると考えられます。小●製薬さん、お礼はいりません。

最後になりますが、本研究室では、老若問わず身の回りの物理現象に興味をもってもらえるきっかけとなるような、出前授業(出張授業)を行っています。対象は小学生、中学生、高校生から、大人までを想定しています。
(授業内容の例)
・1リットルのビーカーの中で雨を降らせ、気象を再現する実験
・高速度カメラで扇風機や人の瞬きを撮影してその動きを観察
・サーモグラフィーで見えない“熱”を見る体験
など
小中学生の自由研究や学校の授業にもご活用いただけます。
興味のある方は「お問い合わせ」から気軽にお問い合わせください。このような実験が見てみたい、してみたいなどのご要望にも、できる限り応じてお役に立ちたいと思います。